各氏より本作へ頂戴したコメントを、随時掲載してゆきます。
公開が近づくにつれて、増えていきます。
様々な角度から見えた『天使突抜六丁目』。
作品ご鑑賞のお供に、こちらもあわせてご覧ください。
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何より目をひくのは映画のあちこちに出現する「窓」だ。時に抑圧的に、時にユーモ
ラスに窓は内と外との境界をきわだたせる。窓に向かってぽつんと坐る人形化した男
の表情がとりわけ印象的だった。彼はいったいどうやればこの窓を軽々と超えること
ができるのか・・・。やがて山田雅史の一貫したテーマ「暴力」と「脱出」があり、
映画は驚異的な終局に向けて突き進む。「天使突抜」の意味が鮮やかに理解されるの
はここからだ。現代日本映画がこれほどまでに神々しくあることが可能なのかと、私
はあらためて驚嘆した。
−− 黒沢 清(映画監督)
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歩行者は警備員の誘導によって道路工事を知覚する。彼らがいなければ、目の前の工
事に気づきもしない。しかし警備員の慧眼をもってしても当の警備員自身が道に迷っ
てしまうのだから、「実在」するというその町の住環境のいびつさは強烈だ。工事は
道路を造り、道路は次の工事のために伸張してゆく。その循環構造の中で心細く屹立
する警備員は、「絶対逃げられへんぞ」という声を背負い、どこまで逃げてくれるの
だろうか。
−− 冨永昌敬(映画監督『乱暴と待機』)
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ブルーグレイの色味のような不安とやさしさの印象の映像美と、作品全体を覆うまる
で効果音のような時に癒やしの、時にヒステリックな音楽が、この作品の浮遊感を象
徴しているように感じられる。この作品の中の「天使」は そのシーンとは関係なしに、
蒼い夜明けや蒼い夕刻に現れるそれのようだ。好きな人と共にどこかへ逃げる、とい
うロマンチックなシークエンスはこれほど甘美なものなのかと思わせられるが、その
ロマンスは短く、ファンタジックな中に現実のシビアさがオーヴァーラップする。脚
本的にも、設定の割に普段わたしたちが日常話しているようなセリフが多く、最初か
ら甘めのファンタジーを期待する人は裏切られるだろう。天使突抜町が京都に実在す
る町であることから架空の町の発想を得たというが、ほとんどが標準語で、現実の京
都の閉鎖感とはまったく異質な、作品独特の閉鎖感となっている。主人公の男は、作
品の中での始まりと、残酷ゆえにますます美しいラストシーンのあとではどのような
心境的変化を成したのであろうか、と考える間も許さず本作品は終わりを告げる
−− 戸川 純(歌手・女優)
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超現実主義(シュルレアリスム)画家・山田雅史は、18歳で映画作家になってより
映画の現実時間に身を座していたように思う。油臭い労働者、マグロ、そして警備
員―ヒザから地面の抗いがたい重力に囚われ、やがてこの世の底へ下る坂を駆けて
いく主人公のように。
警備員、タクシー運転手、清掃夫、と言うらしい。
人が一生の最期に選ぶ部屋「終の棲家(ついのすみか)」を職業に言い換えた、
終の仕事。
晩年に会社を追われ金も残らず、人生の最期をつなぐ仕事。疲弊と恐怖とは時間と
共に増し、この映画の杉本の言うとおり、確かに人を変えていく。都心に出て5年、
警備をしながら映画を続けている僕はそう実感する。
山田雅史の画を、映像に加える迷宮じみた色彩変調を観れば、現実がもう少し塗り
替えられることを思う。しかし山田は倦怠が人を狂わせんばかりの時間にいまなお
身を置く。
映画を志したそもそもの動機―絵画は風に揺れるブランコを描くことは出来る、し
かしブランコを揺らす風の時間は映画にしか描写できない―と山田がかつて語って
いた倦怠極まりない時間を信じるかのように。
『天使突抜六丁目』は永い倦怠極まる現実時間の最後、超現実を目撃しようとする。
−− 木村文洋(映画監督『へばの』)
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わざと、知らない路地に入り込むことがある、迷うために。
京都には、わたしの知らない、
どこか「ちがう世界」につながる場所が時折、存在する。
だからこの街は、時の流れに追いつけない人達に優しい。
そんな京都の街を描いた映画です。
−− 花房観音(官能女流作家・第一回団鬼六賞受賞「花祀り」)
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相反する世界観の共存。
淡々と進んでいるようで しかし 一つ一つに
物事をしっかりと考えさせる。
徐々に、その世界へ引き込まれていきます。
−− 秋田ゴールドマン(SOIL&”PIMP”SESSIONS)
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現状に100%満足できる人なんていない。だからとにかく突破したい。年齢を重ね
るにつれ忘れがちになってしまう単純な苦悩を、リアリティなんていうつまらないも
のじゃなくて、ファンタジーとして呼び起こそうとする山田監督のケレン味は唯一無
二のものだ。そんな山田映画の醍醐味を堪能するには、スクリーンに映し出される闇
と光を見て、徹底的に設計された音に痺れて、劇場ロビーに置かれた山田画伯絵画を
生に感じるしかない。つまり劇場に行くしかない。現状を突破できるかどうかの苦悩
はそこから始まる気がして、事実、映画を体験した僕自身も苦悩し始めてしまった。
−−吉田浩太(映画監督『ソーローなんてくだらない』『ユリ子のアロマ』)
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ピンバック: 黒沢清監督と山田雅史監督がトークを行いました。 | 映画「天使突抜六丁目」の日々